第4回 失敗しやすい事業計画書の特徴
シリーズ「介護事業、このまま進めて本当に大丈夫ですか?」
第4回 失敗しやすい事業計画書の特徴
介護事業の立ち上げ相談では、事業計画書を見せていただくことがよくあります。
何か月もかけて作られたもの。
金融機関への融資相談を想定して作られたもの。
専門家と一緒に作ったもの。
ご自身で何度も数字を修正しながら作ったもの。
どの事業計画書からも、
「この事業を何とか成功させたい」
という強い思いが伝わってきます。
ただ、その一方で、計画書を拝見していると、
「数字はきれいにまとまっているけれど、このまま進めると開業後に苦労するかもしれない」
と感じることがあります。
決して計画書の作り方が間違っているわけではありません。
問題なのは、
「事業計画書を完成させること」が目的になってしまっていること
です。
介護事業の事業計画書は、銀行に融資を申し込むためだけの書類でも、指定申請の準備をするためだけの資料でもありません。
本来は、
「この事業をどうやって続けていくのか」
を考えるための設計図です。
今回は、これまで介護事業の立ち上げや運営に関わってきた中で感じる、
「失敗しやすい事業計画書の特徴」
について、少し具体的にお話ししたいと思います。
特徴① 良いことしか書かれていない
最初に確認したいのが、
「この計画は、すべてが予定どおりに進むことを前提にしていないか」
ということです。
例えば、
・開業後すぐに問い合わせが入る。
・予定どおり入居者が増える。
・採用予定の職員が全員集まる。
・退職者も出ない。
・想定外の支出も発生しない。
・半年後には計画どおり黒字化する。
もちろん、そうなれば理想です。
しかし実際の事業では、計画どおりに進まないことがあります。
むしろ、
計画どおりにいかないことを前提に準備しておくこと
が経営では大切です。
例えば老人ホームを開設したとして、計画では6か月で一定の入居率に到達するとします。
では、
3か月遅れたらどうなるでしょうか。
家賃は発生します。
人件費も必要です。
水道光熱費もかかります。
借入金の返済も始まるかもしれません。
ところが売上だけが予定に届かない。
こうなると、黒字化の時期だけではなく、手元資金にも影響します。
だから私は、事業計画を見るときに、
「予定どおりならどうなるか」
だけではなく、
「予定より遅れたらどうなるか」
も確認します。
例えば「3つのシナリオ」を考えてみる
事業計画を作るのであれば、一つの数字だけを見るのではなく、
・順調に進んだ場合
・標準的に進んだ場合
・想定より遅れた場合
という複数のケースを考えてみるのも一つの方法です。
例えば入居ペースなら、
・計画どおり進んだ場合。
・入居が3か月遅れた場合。
・さらに遅れた場合。
それぞれで、
「手元資金はいつまで持つのか」
「どこで経費を見直す必要があるのか」
「営業活動をいつ強化するのか」
まで考えておきます。
良い事業計画とは、
「成功する未来だけを書いた計画」ではありません。
うまくいかなかったときにも、
次の判断ができる計画
だと私は考えています。
特徴② 数字の根拠が曖昧
事業計画書を見ると、
売上、経費、利益などの数字がきれいに並んでいます。
例えば、
「6か月後には入居率70%」
「1年後には90%」
「月商○○万円」
「人件費○○万円」
などです。
そこで、
「なぜ、この数字なんですか?」
と聞いてみます。
すると、
「同じような施設がそれくらいだから」
「一般的にはこのくらいだと思って」
「ネットで調べた数字を参考にしました」
という答えが返ってくることがあります。
もちろん、最初の計画を作る段階では参考数字も必要です。
ただし、それだけで事業を始めるのは少し危険です。
なぜなら、
介護事業は地域によって条件がかなり違うからです。
「高齢者が多い地域」だけでは足りない
例えば、
「この地域は高齢者が多いので需要があります」
という説明があります。
確かに高齢者人口は重要です。
しかし、それだけで需要を判断できるでしょうか。
・同じ地域に競合施設はいくつあるのか。
・その施設は満床なのか。
・空室が多いのか。
・どの価格帯が選ばれているのか。
・どのような介護ニーズがあるのか。
・地域のケアマネジャーや医療機関から、どのようなサービスが求められているのか。
こうした情報まで見ていく必要があります。
つまり、
「高齢者が多い=自分の事業に利用者が来る」
ではありません。
大切なのは、
「この地域で、このサービスを、この価格で提供する理由」
です。
そこまで説明できて初めて、数字に根拠が生まれます。
特徴③ 売上は細かいのに、人件費が粗い
これは介護事業では特に注意したいところです。
売上については、
利用者数×単価。
居室数×入居率。
加算も含めて細かく計算している。
ところが人件費を見ると、
「職員○名で月○○万円」
程度で終わっていることがあります。
介護事業では、人件費は経営に大きな影響を与えます。
しかも考える必要があるのは給与だけではありません。
社会保険料。
賞与。
採用費。
求人広告費。
紹介会社を利用した場合の費用。
研修費。
残業代。
夜勤体制。
欠員が出た場合の対応。
こうした費用もあります。
さらに、
「必要人数を採用できるか」
という問題もあります。
「採用できる前提」で作られていないか
例えば、
「開業時に介護職員を10名採用する」
と計画しているとします。
では、
その10名をどのように採用するのでしょうか。
いつから募集するのか。
求人媒体は何を使うのか。
採用予算はいくらか。
管理者候補は決まっているのか。
採用できなかった場合はどうするのか。
ここまで考えて初めて、
「10名採用する」という数字が計画になります。
介護事業は、建物だけでは運営できません。
人がいて初めてサービスを提供できます。
だからこそ、
事業計画と採用計画はセット
で考える必要があります。
特徴④ 開業費用は計算しているが、運転資金が少ない
これも非常によくあるポイントです。
物件取得費。
保証金。
改修工事費。
設備費。
家具や備品。
車両費。
こうした「開業するまでに必要なお金」は比較的細かく計算されています。
ところが、
「開業してから売上が安定するまでのお金」
が十分に計算されていないことがあります。
介護事業では、開業した翌日から売上が満額入ってくるわけではありません。
利用者や入居者が徐々に増えていく事業であれば、その間も固定費は発生します。
つまり、
赤字期間を支えるお金
が必要です。
私は前回までのブログでもお伝えしていますが、自己資金や融資を考えるとき、
「開業できるか」
だけを見るのではなく、
「売上が安定するまで持ちこたえられるか」
を見ることが非常に重要だと思っています。
特徴⑤ 開業するところまでしか書かれていない
事業計画書を作っていると、
どうしても開業までに意識が集中します。
物件を決める。
融資を受ける。
工事をする。
指定申請をする。
スタッフを採用する。
そして開業。
ここまで来ると、
「ようやく完成した」
という気持ちになると思います。
しかし、経営から見れば、
開業日はゴールではなくスタートです。
本当に大切なのは、
その翌日からです。
利用者はどうやって増やすのか
例えば、
開業したことを誰に知ってもらうのでしょうか。
地域包括支援センター。
ケアマネジャー。
医療機関。
居宅介護支援事業所。
地域の関係者。
紹介会社。
サービスによって営業先や関係づくりの方法は変わります。
「開業すれば利用者が来る」
という計画ではなく、
「誰に、いつから、どうやって知ってもらうのか」
まで考える必要があります。
これは開業後に始めることではありません。
場合によっては、開業前から地域との関係づくりを進めておく必要があります。
特徴⑥ スタッフの「採用」はあるが「定着」がない
人材計画というと、
「何人採用するか」
だけになりがちです。
しかし介護事業では、
採用した後、
どうやって働き続けてもらうか
も非常に重要です。
管理者は誰なのか。
現場の役割分担はどうするのか。
教育は誰が担当するのか。
困ったときの相談先はあるのか。
評価や面談はどうするのか。
職員同士の情報共有をどうするのか。
こうした運営設計が曖昧だと、せっかく採用したスタッフが定着しない可能性があります。
そして退職者が出れば、
再び採用コストがかかります。
残ったスタッフへの負担も増えます。
場合によってはサービス提供そのものにも影響します。
だから、
採用人数だけではなく、定着まで含めて人材計画
だと考える必要があります。
特徴⑦ 「想い」が数字や仕組みにつながっていない
介護事業を始めようとする方には、強い想いがあります。
「地域の高齢者の役に立ちたい」
「自分が理想とする介護を実現したい」
「利用者にも家族にも安心してもらえる施設をつくりたい」
「スタッフが長く働ける職場をつくりたい」
私は、この想いはとても大切だと思っています。
むしろ介護事業を長く続けるためには、必要なものです。
ただし、
想いだけでは経営できません。
例えば、
「手厚い介護を提供したい」
のであれば、
どのくらいの人員配置が必要なのか。
その人件費をどう支えるのか。
「スタッフが働きやすい職場にしたい」
のであれば、
どんな勤務体制にするのか。
教育や休暇をどう設計するのか。
そのコストを収支計画にどう反映するのか。
つまり、
想いを数字と仕組みに変える必要があります。
理念と収支は対立するものではありません。
むしろ、
理念を続けるために経営が必要
なのだと思います。
特徴⑧ 「撤退・修正する基準」がない
事業計画というと、
「どう成功させるか」
ばかりを考えます。
しかし私は、
「どこまでいったら計画を見直すのか」
も考えておいた方が良いと思っています。
例えば、
・入居率が○か月経っても一定水準に届かない。
・採用コストが想定を大幅に上回る。
・手元資金が一定水準を下回る。
・営業しても紹介件数が増えない。
こうした場合に、
「もう少し頑張れば何とかなる」
だけで進み続けると、判断が遅れることがあります。
だから、
計画を修正するタイミング
を事前に考えておく。
必要であれば規模を変更する。
採用計画を見直す。
営業方法を変える。
場合によっては、一度立ち止まる。
これも立派な経営判断です。
以前の事例でもお話ししましたが、
「やらない」「止まる」「見直す」も経営の選択肢
です。
良い事業計画書とは何か
ここまで「失敗しやすい特徴」をお話ししてきました。
では、良い事業計画書とはどのようなものでしょうか。
私は、
見た目がきれいな計画書ではなく、経営者が実際に使える計画書
だと考えています。
例えば、
・数字に根拠がある
・複数のシナリオを想定している
・開業後の運転資金まで考えている
・採用と定着を考えている
・利用者獲得の方法が具体的になっている
・想いが数字や仕組みに落とし込まれている
・計画が崩れた場合の対応策がある
・見直す基準が決まっている
こうした内容が整理されていれば、事業を始めた後にも使うことができます。
事業計画書は「答え」ではなく「判断するための基準」
事業を始める前には、未来を完全に予測することはできません。
どれだけ調査しても、
実際に始めてみなければ分からないことがあります。
だから私は、
事業計画書に100%正しい未来を書く必要はないと思っています。
大切なのは、
「計画と実績の違いを見て、次の判断ができること」
です。
例えば、
「予定では6か月でこの入居率だった」
しかし実際には届いていない。
では、
なぜ届いていないのか。
・営業件数が少ないのか。
・問い合わせはあるが契約につながっていないのか。
・価格設定なのか。
・サービス内容なのか。
・競合なのか。
そこから次の対策を考えます。
つまり事業計画書は、
未来を当てるためのものではなく、未来が違ったときに判断するための基準
でもあるのです。
「銀行に見せる計画書」と「自分が使う計画書」を同じものにする
事業計画書を、
「銀行に提出するための書類」
と考えている方も少なくありません。
もちろん、融資の場面では重要な資料です。
しかし、
銀行に提出した瞬間に役目を終えてしまう計画書では、少しもったいないと思います。
融資を受けた後。
開業した後。
3か月後。
半年後。
1年後。
実績と計画を比較しながら、
「今、予定とどこが違っているのか」
を確認する。
そして必要なら計画を修正する。
そこまで使える計画書にしておく。
そうすれば事業計画書は、
提出資料ではなく経営ツール
になります。
事業計画書を作ったら、一度自分に質問してみてください
これから介護事業を始める方は、完成した事業計画書を見ながら、次のような質問をしてみてください。
・この売上の根拠を説明できるか
・入居や利用者獲得が3か月遅れても大丈夫か
・必要な職員を本当に採用できるか
・採用できなかった場合の方法はあるか
・開業後の運転資金は十分か
・誰が営業するのか決まっているか
・地域との関係づくりをいつ始めるのか
・スタッフを定着させる仕組みはあるか
・想定外の支出が発生しても対応できるか
・どの段階で計画を見直すのか
・この事業を3年後も続けられるイメージがあるか
そして、もう一つ。
「この事業計画を、自分の言葉で説明できるか」
です。
ここで答えに迷うところがあれば、
そこが今、整理すべきポイントなのかもしれません。
最後に
事業計画書は、
開業するために作る書類ではありません。
銀行から融資を受けるためだけの書類でもありません。
私は、
「事業を続けるための設計図」
だと考えています。
設計図があるからといって、すべてがその通りに進むわけではありません。
実際の経営では、
入居が遅れることもある。
採用に苦戦することもある。
予想外の支出が出ることもある。
制度や市場環境が変わることもある。
だからこそ必要なのは、
「絶対に成功する計画」ではありません。
必要なのは、
「予定と違ったときにも、次の判断ができる計画」です。
事業計画書を作ったら、
「数字が合っているか」
だけではなく、
「この計画で本当に運営できるか」
という視点でも、一度見直してみてください。
もし今、
・介護事業の事業計画書を作っている
・数字は入れたけれど根拠に自信がない
・収支計画が現実的なのか確認したい
・人件費や運転資金が適正なのか不安
・銀行へ提出する前に確認してほしい
・第三者の視点から事業計画を見てほしい
という方は、一度事業計画を整理してみることをおすすめします。
B&T Laboでは、
「事業計画書の書き方」だけを見るのではなく、
その計画で実際に事業を続けられるのか
という視点から、事業計画・資金計画・人材計画・運営体制を一緒に確認しています。
開業することが目的ではありません。
その先に、
利用者がいて、
ご家族がいて、
そこで働くスタッフがいます。
だからこそ、
始められる事業ではなく、続けられる事業をつくる。
それが、介護事業を計画する段階で最も大切なことの一つではないでしょうか。
事業は、始めることより続けること。
B&T Laboは、そのための事業づくりを一緒に考えます。
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