第6回 一人で決めてはいけない理由
シリーズ「介護事業、このまま進めて本当に大丈夫ですか?」
第6回 一人で決めてはいけない理由
介護事業の立ち上げを考えている方から、こんな言葉を聞くことがあります。
「ある程度、自分の中では決まっています」
「自分なりにかなり調べました」
「事業計画も作ったので、あとは進めるだけだと思っています」
ここまで準備してきた方ほど、自分の中にある程度の答えを持っています。
それ自体は、決して悪いことではありません。
むしろ経営者として、自分で調べ、自分で考え、自分で決断しようとする姿勢はとても大切です。
誰かに言われるまま事業を始めても、経営は続きません。
最終的に責任を負うのは経営者ですから、最後は自分自身で判断する必要があります。
ただ、これまで介護事業の立ち上げや運営に関わってきた中で、私が強く感じていることがあります。
それは、
大きな失敗を避けている経営者ほど、一人で判断していない
ということです。
自分で考えない、という意味ではありません。
むしろ逆です。
自分で考えたうえで、
「自分には見えていないものがあるかもしれない」
と考え、意識的に第三者の視点を入れています。
今回は、なぜ介護事業の立ち上げを一人だけで決めない方がいいのか。
そして、第三者に相談することが、なぜ経営判断の質を高めるのかについて考えてみたいと思います。
「ここまで考えたから大丈夫」が危ないこともある
介護事業の立ち上げには、たくさんのことを決めなければなりません。
どんな介護事業を始めるのか。
どの地域で行うのか。
どんな利用者を想定するのか。
自己資金はいくら用意するのか。
融資はいくら受けるのか。
どんな物件を選ぶのか。
何人採用するのか。
利用者をどう獲得するのか。
開業後の収支をどう組み立てるのか。
一つひとつ調べて計画を作っていくと、最初はぼんやりしていた事業の姿が少しずつ具体的になっていきます。
そして、あるところまで来ると、
「これならいけそうだ」
という感覚が生まれてきます。
もちろん、その感覚は必要です。
経営者自身が事業に可能性を感じられなければ、前には進めません。
ただし、ここに一つ注意したいことがあります。
事業計画を作った本人は、当然ながら、
「この事業を成功させたい人」
でもあります。
そのため、無意識のうちに「うまくいく理由」を集めやすくなります。
市場調査をしていても、自分の考えを裏付ける情報に目が向く。
候補物件を見ても、気に入った物件なら良いところが目につく。
採用についても、
「何とか集まるだろう」
と考えてしまう。
利用者獲得についても、
「この地域ならニーズはあるはず」
と考えてしまう。
これは特別なことではありません。
人間なら誰にでも起こることです。
だからこそ、
自分の計画を、自分だけで客観的に評価することには限界があります。
「見えていないリスク」は計画書には出てこない
例えば、事業計画書には、
「開業6か月で満室」
と書いてあるとします。
では、
なぜ6か月なのでしょうか。
地域の高齢者人口から算出したのか。
周辺施設の稼働状況を調べたのか。
紹介元となる居宅介護支援事業所や病院などの状況を確認したのか。
営業活動に必要な期間を考えたのか。
それとも、
「半年くらいなら現実的だろう」
という感覚でしょうか。
同じことは採用にも言えます。
「開業時に介護職員○名を採用」
と書いてあっても、
その地域で本当にその人数を採用できるのか。
求人媒体は何を使うのか。
採用単価はいくら見込んでいるのか。
応募が集まらなかった場合はどうするのか。
採用できても、定着しなかった場合はどうするのか。
ここまで考えると、
計画書に数字を書いたことと、実際にその数字を実現できることは別の話だと分かります。
本人は何度も計画を見直している。
数字も確認している。
だからこそ、
「かなり考えたから大丈夫」
と思ってしまいます。
ところが第三者が見ると、
「この数字の根拠は何ですか?」
という、たった一つの質問から計画の弱い部分が見えてくることがあります。
事業が進むほど「引き返しにくくなる」
もう一つ、一人で判断しない方がいい理由があります。
それは、
事業は進めば進むほど、計画を変えにくくなる
からです。
例えば、
事業計画を作った。
銀行にも相談した。
候補物件も見つかった。
不動産会社との話も進んでいる。
開業時期まで決めた。
ここまで来てから、
「やっぱりこの物件はやめた方がいいかもしれない」
と言われたら、どう感じるでしょうか。
頭では、
「確かにそうかもしれない」
と思っても、
心の中では、
「ここまで進めたのに」
と思ってしまうのではないでしょうか。
時間も使っています。
お金も使っています。
周囲にも「介護事業を始める」と話しているかもしれません。
だから、少し気になる点があっても、
「もうここまで来たんだから進もう」
という判断をしやすくなります。
しかし、本来考えるべきなのは、
「これまでどれだけ時間やお金を使ったか」
ではありません。
「これからこの事業を続けられるか」
です。
第三者の役割の一つは、こうした時に、これまでの経緯から少し距離を置いて事業を見ることだと思っています。
経営者に必要なのは「決断力」だけではない
経営者というと、
「決断する人」
というイメージがあります。
確かに、最後は経営者が決めなければなりません。
しかし、私は経営者に必要なのは、決断力だけではないと思っています。
もう一つ大切なのが、
「相談する力」です。
良い経営者ほど、重要な判断の前にいろいろな人の話を聞いています。
例えば、
金融機関。
行政担当者。
税理士や社労士などの専門家。
建築や消防の専門家。
介護業界で実際に経営している人。
現場経験のある介護職。
場合によっては、地域の医療・介護関係者。
それぞれ見ているものが違います。
銀行は、
「この事業は返済できるのか」
という視点で見ます。
行政は、
「制度や基準に適合しているか」
を見ます。
建築や消防の専門家は、
「この建物で本当に事業ができるのか」
を確認します。
介護現場を知っている人なら、
「この人員配置で現場が回るのか」
「この動線では職員の負担が大きくならないか」
という視点を持つでしょう。
つまり、
一人の専門家だけですべてを判断できるわけではありません。
だからこそ、複数の視点を集めることに意味があります。
ただし「相談する人が多ければいい」わけでもない
ここは少し注意が必要です。
「一人で決めない方がいい」
というと、
できるだけ多くの人に相談した方がいいように思えるかもしれません。
しかし、私はそうは思いません。
10人に相談すれば、10通りの意見が返ってくることもあります。
Aさんは、
「絶対にやった方がいい」
と言う。
Bさんは、
「今はやめた方がいい」
と言う。
Cさんは、
「もっと大きな規模でやった方がいい」
と言う。
Dさんは、
「小さく始めた方がいい」
と言う。
これでは、かえって迷ってしまいます。
大切なのは、
「誰に、何を聞くのか」を整理することです。
融資のことなら金融機関。
制度のことなら行政。
労務なら社労士。
税務なら税理士。
建築や消防なら、それぞれの専門家。
そして、
事業全体として成立するかどうかを見る人。
相談相手によって役割は違います。
意見をたくさん集めることが目的なのではありません。
自分だけでは持てない視点を補うことが目的です。
「反対意見」を言ってくれる人を持つ
相談相手を選ぶ時、もう一つ大切にしてほしいことがあります。
それは、
自分と違う意見を言ってくれる人がいるか
ということです。
事業への想いを話した時、
「いいですね」
「ぜひやりましょう」
と言ってもらえれば、もちろん嬉しいと思います。
ただ、本当に事業を守ってくれるのは、
必ずしも賛成してくれる人だけではありません。
例えば、
「この売上予測は少し楽観的ではないですか?」
「この運転資金では、入居が遅れた時に厳しくなりませんか?」
「この物件は、採用を考えると少し不利ではないでしょうか?」
「この人員計画では、開業後に現場がかなり大変になると思います」
そんなことを言われたら、気持ちの良いものではないかもしれません。
ですが、
その一言を開業前に聞くのか。
それとも、
開業して資金が減ってから気づくのか。
この差は、とても大きいと思います。
反対意見は、事業を否定するためのものではありません。
見えていないリスクを教えてくれる、大切な材料です。
相談することは「判断を任せること」ではない
ここで、もう一つお伝えしたいことがあります。
専門家に相談したからといって、
専門家に経営判断を任せるわけではありません。
「専門家が大丈夫と言ったからやります」
では、経営者自身の判断とは言えません。
第三者から意見を聞く。
数字を確認する。
リスクを洗い出す。
別の選択肢を知る。
そのうえで、
最後に決めるのは経営者です。
私は、相談とは、
「答えを教えてもらう場所」
というより、
「自分が納得して判断するための材料を増やす場所」
だと思っています。
だからB&T Laboの相談でも、
「こうしてください」
と一方的に答えを出すことを目的にはしていません。
なぜそう考えているのか。
数字の根拠は何なのか。
もし予定どおりにいかなかったらどうするのか。
どこまでなら耐えられるのか。
そうしたことを一緒に整理していきます。
B&T Laboの相談で大切にしていること
介護事業を始めたい方から相談を受けた時、私は最初から、
「どうすれば開業できるか」
だけを考えることはしません。
まず確認したいのは、
「この事業は、開業した後も続けられるのか」
ということです。
そのため、
事業内容。
地域ニーズ。
売上計画。
人員配置。
採用計画。
自己資金。
融資。
運転資金。
物件。
開業後の運営。
こうしたものを、一つずつ切り離して見るのではなく、つなげて考えていきます。
例えば、良い物件が見つかったとしても、
家賃が高ければ収支に影響します。
駅から遠ければ採用に影響するかもしれません。
改修費が増えれば運転資金が減ります。
採用が遅れれば開業時期にも影響します。
開業が遅れれば、その間にも家賃などの固定費は発生します。
一つの判断が、別の部分に影響します。
だからこそ、
事業全体を見る視点
が必要になります。
「まだ相談する段階ではない」はありません
相談について、よくあるのが、
「もう少し自分で整理してから相談します」
という言葉です。
もちろん、自分で考える時間は必要です。
ただ、
すべてを決めてから相談する必要はありません。
むしろ、
「まだ事業モデルが固まっていない」
「自己資金でどのくらいの規模ができるのか分からない」
「物件を探し始める前に条件を整理したい」
「何から考えればいいか分からない」
という段階だからこそ、第三者と話す意味があります。
逆に、
物件を契約した。
融資を受けた。
工事も始めた。
職員も採用した。
というところまで進んでから、
「この計画で大丈夫でしょうか?」
と相談しても、選択肢はかなり少なくなっています。
相談するなら、変更できる余地があるうちに。
これは介護事業の立ち上げでは、とても大切なことだと思います。
一人で考える時間と、相談する時間を分ける
もちろん、何でも人に聞けばいいわけではありません。
経営者自身が考える時間は必要です。
私は、
「自分で考える」→「相談する」→「もう一度自分で考える」
という流れが大切だと思っています。
まず、自分がどんな事業をしたいのか考える。
数字を作る。
情報を集める。
仮説を立てる。
そこまでできたら、一度第三者に見てもらう。
そこで質問や反対意見をもらう。
そして、もう一度自分で考える。
必要なら計画を修正する。
この繰り返しによって、事業計画は少しずつ現実に近づいていきます。
最初に作った計画を守ることが目的ではありません。
より現実的な計画に変えていくことが目的です。
相談した結果「やらない」ことも成功の一つ
介護事業の立ち上げ相談というと、
相談したら最終的には開業するものだと思われるかもしれません。
でも、私は必ずしもそうではないと思っています。
数字を整理してみたら、
「今の自己資金では少し厳しい」
と分かるかもしれません。
地域を調べたら、
「別のエリアの方が可能性がある」
と分かるかもしれません。
採用状況を確認したら、
「この事業規模では人員確保が難しい」
と分かるかもしれません。
その結果、
半年延期する。
自己資金を増やす。
事業規模を変更する。
別の物件を探す。
場合によっては、今回はやらない。
そういう判断もあります。
それは、
失敗ではありません。
開業してから資金繰りに行き詰まり、利用者や職員に影響が出る前に判断できたのであれば、
むしろ大切な経営判断だったと言えるのではないでしょうか。
最後に|決めるのは経営者。でも、一人で決める必要はない
介護事業は、地域の暮らしを支える仕事です。
そこには利用者がいます。
ご家族がいます。
働くスタッフがいます。
そして、事業を続けていく経営者自身の生活もあります。
だからこそ、
「やりたい」という想いだけでも、
「数字が合う」という理由だけでもなく、
さまざまな視点から事業を見ること
が大切です。
経営者が最終的に決断する。
これは変わりません。
ただ、
経営者だからこそ、一人で決めなくていい。
私はそう考えています。
自分で考える。
第三者に相談する。
違う意見を聞く。
数字をもう一度見る。
リスクを整理する。
そして、
最後は自分で納得して決める。
そのプロセスが、事業を始めた後の経営者自身の自信にもつながっていきます。
もし今、
・この事業計画で本当に進んでいいのか
・自己資金や融資の考え方に無理はないか
・候補物件を契約していいのか
・採用や利用者獲得の計画は現実的なのか
・自分だけで判断することに少し不安がある
そんなことを感じているのであれば、すべてを決めてしまう前に、一度第三者の視点を入れてみてください。
B&T Laboでは、
「どうすれば介護事業を始められるか」だけではなく、
「本当にこの計画で進んでいいのか」
「どうすれば開業後も続けられるのか」
という視点から、介護事業の立ち上げを一緒に整理しています。
相談することは、判断を誰かに任せることではありません。
より良い判断をするために、自分にはない視点を増やすこと。
そして最後に決めるのは、経営者自身です。
決めるのは自分。
でも、一人で決める必要はありません。
事業は、始めることより続けること。
B&T Labo
#介護起業
#介護事業立ち上げ
#介護経営
#介護ビジネス
#介護施設開業
#老人ホーム立ち上げ
#経営判断
#経営相談
#事業計画
#事業設計
#資金計画
#創業準備
#開業準備
#新規事業立ち上げ
#介護事業相談
#福祉経営
#経営者
#第三者の視点
#起業サポート
#BTLabo

