第7回 相談に来る人と来ない人との差
シリーズ「介護事業、このまま進めて本当に大丈夫ですか?」
第7回 相談に来る人と来ない人の差
介護事業の立ち上げを考えている方とお話ししていると、よく感じることがあります。
それは、
相談に来る人と、相談に来ない人では、事業を進める時の「判断の仕方」に違いがある
ということです。
もちろん、相談に来れば必ず事業が成功するわけではありません。
反対に、誰にも相談せず、自分で調べ、自分で判断し、事業を軌道に乗せる方もいらっしゃいます。
なので、
「相談する人=成功する人」
「相談しない人=失敗する人」
という単純な話ではありません。
ただ、これまで介護事業の立ち上げや運営に関わり、さまざまな経営者の方とお話ししてきた中で、一つ感じていることがあります。
それは、
相談する人ほど、大きな判断をする前に「一度確認する」という行動を取っている
ということです。
物件を契約する前。
融資を申し込む前。
大きな設備投資をする前。
職員の採用を始める前。
開業時期を決める前。
「おそらく大丈夫だろう」で進むのではなく、
「本当にこれで大丈夫だろうか?」
と、一度立ち止まる。
この小さな違いが、開業後に大きな差になることがあります。
今回は、「相談に来る人と来ない人の差」について考えてみたいと思います。
「相談する人=知識がない人」ではありません
相談というと、
「わからないから専門家に聞く」
「知識がないから教えてもらう」
というイメージを持つ方もいるかもしれません。
もちろん、それも相談の一つです。
しかし、実際に介護事業の立ち上げ相談に来られる方を見ていると、むしろ逆のケースも少なくありません。
相談に来られる方ほど、自分でよく調べています。
介護保険制度について調べている。
必要な人員配置を確認している。
物件を探している。
事業計画書も作っている。
収支シミュレーションもしている。
金融機関にも相談している。
つまり、
「何もわからないから相談に来た」
という方ばかりではありません。
ある程度調べたうえで、
「自分の理解で合っていますか?」
「この数字に無理はありませんか?」
「何か見落としていませんか?」
「別の考え方はありませんか?」
と確認するために相談されています。
ここは、とても重要な違いだと思っています。
相談とは、必ずしも知識を教えてもらうためだけのものではありません。
自分の判断の精度を上げるために、別の視点を入れる時間でもあるのです。
なぜ、自分でよく調べた人ほど相談するのか
考えて見ると、
「そこまで自分で調べているなら、相談しなくてもいいのでは?」
と思うかもしれません。
でも、調べれば調べるほど、
「簡単には判断できない」
ということが見えてきます。
たとえば、介護事業の物件選び。
家賃が安い。
広さも十分。
駅からも近い。
一見すると、とても良い物件に見えるかもしれません。
しかし、考えることはそれだけではありません。
予定している事業ができる建物なのか。
改修費はいくらかかるのか。
消防設備はどうなるのか。
職員を採用しやすい場所なのか。
地域に十分なニーズがあるのか。
開業が予定より遅れた場合でも家賃を払い続けられるのか。
満室になるまでの資金は持つのか。
一つ調べると、また次の確認事項が出てきます。
だからこそ、よく調べている人ほど、
「自分だけで全部を判断するのは危ないかもしれない」
と気づくのです。
これは弱さではありません。
むしろ、経営判断に慎重になっているということだと思います。
一人で考え続けると「見たいもの」だけを見ることがある
事業を始めようと決めると、人は当然、その事業を実現したいと思います。
時間をかけて調べる。
事業計画を作る。
金融機関を探す。
物件を見に行く。
関係者と話をする。
少しずつ準備が進んでいきます。
すると、ある段階から、
「ここまで準備したのだから、このまま進みたい」
という気持ちが強くなります。
これは決して悪いことではありません。
事業を始めるには、前へ進む力が必要だからです。
ただ、その気持ちが強くなりすぎると、少し注意が必要です。
たとえば、ある物件を気に入ったとします。
すると、
「駅から近い」
「家賃も予算内」
「広さも十分」
「オーナーも介護事業に理解がある」
と、良い情報がどんどん目に入ります。
一方で、
「改修費が思ったより高くなる」
「採用には少し不利な場所かもしれない」
「周辺の競合が多い」
「満室になるまで時間がかかる可能性がある」
といった情報を、無意識のうちに小さく評価してしまうことがあります。
人は、自分が決めた方向を肯定する情報を集めやすいものです。
特に、すでに時間やお金を使っているほど、
「今さら方向を変えたくない」
という心理も働きます。
だからこそ、重要な場面では、自分とは違う立場から見てもらうことが大切になります。
相談に来る人は「答え」より「確認」を求めている
相談に来られる方から、
「どうすればいいですか?」
と聞かれることはもちろんあります。
しかし、
「自分はこう考えているのですが、どう思いますか?」
という相談も非常に多くあります。
この違いは大きいと思っています。
すべてを専門家に決めてもらうのではなく、まず自分で考える。
そして、
「この前提は合っているか」
「この数字は現実的か」
「別のリスクはないか」
「他に選択肢はないか」
を確認する。
そのうえで、もう一度自分で考える。
つまり、
自分で考える
↓
第三者に確認する
↓
違う視点を知る
↓
もう一度考える
↓
自分で決める
という流れです。
私は、これがとても健全な経営判断の形だと思っています。
「相談に来ないこと」が問題なのではありません
ここで誤解してほしくないのは、
「必ずコンサルタントに相談しなければいけない」
という話ではないことです。
相談相手は、内容によって違います。
融資なら金融機関。
税務なら税理士。
労務なら社会保険労務士。
建築なら建築士。
消防なら消防署や専門業者。
指定基準なら行政。
現場運営なら実際に介護事業を運営している人。
それぞれに専門的な視点があります。
重要なのは、
「誰かに相談したか」ではなく、「必要な判断について、必要な人に確認したか」
ということです。
そして、もう一つ大切なのが、
自分にとって都合の良い意見だけを集めないこと。
「大丈夫ですよ」
「いいと思います」
「そのまま進めましょう」
と言ってくれる人だけではなく、
「その売上予測は少し楽観的ではありませんか?」
「その自己資金で本当に大丈夫ですか?」
「その物件、本当に採用しやすいでしょうか?」
「その開業時期を急ぐ必要がありますか?」
と問いかけてくれる人も必要です。
時には、耳の痛い意見の方が事業を守ってくれることがあります。
順調に進めている人ほど「確認」を大切にしている
これまで事業の立ち上げや運営に関わってきた中で印象に残っているのは、順調に事業を進めている方ほど、
「確認すること」を面倒がらない
ということです。
たとえば、
「この資金計画で余裕は十分か?」
「利用者の獲得が3か月遅れても大丈夫か?」
「この物件で本当に運営しやすいか?」
「想定している人数を採用できるか?」
「人件費率は現実的か?」
「開業時期をもう少し後ろにした方が安全ではないか?」
と、一つずつ確認していきます。
そして、必要なら計画を変えます。
最初に決めた計画に固執しません。
物件を変える。
開業時期を変える。
事業規模を変える。
採用計画を変える。
資金計画を変える。
時には、事業そのものを一度保留する。
一見すると慎重すぎるように見えるかもしれません。
しかし、
開業前に計画を変更するコストと、開業後に問題を修正するコストは大きく違います。
契約前なら物件を変えられます。
融資実行前なら資金計画を見直せます。
採用前なら人員計画を変えられます。
開業前なら事業規模を見直せます。
まだ決めていない段階ほど、選択肢が多いのです。
相談の価値は「早いほど大きい」ことがある
「問題が起きたら相談しよう」
という考え方もあります。
もちろん、問題が起きた後でも相談する価値はあります。
しかし、介護事業の立ち上げについては、
問題が起きる前の方が、打てる手が多い
という特徴があります。
たとえば物件。
契約後に、
「想定以上の改修費が必要だった」
と分かっても、簡単には戻れません。
融資も同じです。
資金が足りなくなってから追加融資を考えるより、最初から余裕を持った資金計画を作る方が選択肢は多くなります。
採用についても、
開業直前になって、
「必要な人数が集まらない」
となれば、開業スケジュールそのものに影響します。
だからこそ、
物件を契約する前。
融資を申し込む前。
採用を始める前。
開業日を決める前。
こうした「まだ変更できるタイミング」で、一度確認することに大きな意味があります。
相談の価値は、問題を解決することだけではありません。
問題が起きる可能性を早く見つけることにもあります。
相談に来ない人に多い「まだ早い」という考え方
相談を先延ばしにする理由として、
「まだ計画が固まっていないから」
という言葉を聞くことがあります。
「物件が決まったら相談します」
「事業計画を完成させてから相談します」
「融資の目途がついてから相談します」
一見すると、とても真面目な考え方です。
ただ、実はここに落とし穴があります。
物件を決めることも、事業計画を作ることも、資金計画を作ることも、すべて経営判断だからです。
つまり、
相談するための準備をしている間に、重要な判断を一人でしてしまっている
ことがあります。
「まだ何も決まっていないから相談できない」のではありません。
むしろ、
まだ何も決まっていないからこそ、相談できることがあります。
選択肢がたくさん残っているからです。
逆に「もう遅い」と思う必要もありません
一方で、
「もう物件を決めてしまった」
「融資の相談も進んでいる」
「事業計画もほぼ完成している」
という段階になって、
「今さら相談しても仕方がない」
と思われる方もいます。
これも、必ずしもそうではありません。
もちろん、契約前より変更できることは少なくなるかもしれません。
それでも、
資金計画を再確認する。
採用計画を見直す。
利用者獲得の方法を考える。
運営体制を整理する。
開業後の資金繰りをシミュレーションする。
まだできることはあります。
大切なのは、
「早すぎる」「遅すぎる」と自分で決めつけないこと。
今の段階で何を確認できるのかを考えることです。
B&T Laboの初回相談で大切にしていること
B&T Laboの初回相談では、いきなり、
「開業しましょう」
とも、
「やめた方がいいです」
とも決めつけません。
まず確認したいのは、
「今、どこまで考えているのか」
です。
なぜ介護事業を始めようと思ったのか。
どんな事業を考えているのか。
どの地域で考えているのか。
自己資金はどのくらいあるのか。
物件は決まっているのか。
事業計画は作っているのか。
融資について相談しているのか。
採用はどう考えているのか。
そして、
「今、一番不安に感じていることは何か」
を整理します。
そのうえで、
今の計画で良いところ。
もう少し確認した方がいいところ。
数字を見直した方がいいところ。
専門家に確認した方がいいところ。
まだ決めなくてもいいところ。
次に何をすればいいのか。
一つずつ整理していきます。
相談の目的は、B&T Laboが答えを決めることではありません。
経営者自身が、より良い判断をできる状態をつくること。
これを大切にしています。
「相談する力」も経営者に必要な力だと思う
経営者には、決断力が必要です。
最後は自分で決めなければなりません。
しかし私は、
「相談する力」も、経営者に必要な力の一つではないか
と思っています。
何でも人に聞くという意味ではありません。
自分で考える。
自分で調べる。
自分なりの答えを持つ。
そのうえで、
「ここは自分だけで判断しない方がいい」
と見極める力です。
経営をしていれば、すべての分野の専門家になることはできません。
介護制度。
財務。
税務。
労務。
建築。
消防。
採用。
マーケティング。
現場運営。
すべてを一人で完璧に判断することは現実的ではありません。
だからこそ、
必要な時に、必要な人の力を借りる。
そして、集めた情報をもとに最後は自分で決める。
これも経営者の仕事だと思っています。
相談に来る人と来ない人の一番の差
では、相談に来る人と来ない人の一番の差は何でしょうか。
知識の量でしょうか。
経験でしょうか。
自信でしょうか。
私は、それだけではないと思っています。
大きな違いは、
「自分の判断にも、見えていないものがあるかもしれない」と考えられるかどうか
ではないでしょうか。
自分で考えることは大切です。
自信を持って決断することも必要です。
でも、
「自分が知らないことがあるかもしれない」
「自分とは違う見方があるかもしれない」
「この前提自体が間違っているかもしれない」
と、一度考えてみる。
その姿勢が、事業のリスクを小さくすることがあります。
相談とは、自信がない人がするものではありません。
より納得して決断するために、視点を増やす行動です。
最後に|相談することも、一つの経営判断です
介護事業は、開業することが目的ではありません。
建物を借りることでもありません。
融資を受けることでもありません。
指定を受けることでもありません。
本当に大切なのは、
地域に必要とされ、利用者に選ばれ、職員が働き続けられ、経営としても無理なく続いていく事業をつくること。
そのためには、前に進む力だけでなく、
一度立ち止まる力。
確認する力。
人の意見を聞く力。
必要なら計画を変える力。
そして、
相談する力。
こうしたものも必要だと思っています。
もし今、
「この計画で本当に良いのだろうか」
「物件を決める前に一度確認したい」
「資金計画に無理がないか見てほしい」
「自分では大丈夫だと思っているけれど、別の視点からも確認したい」
「何から考えればいいのか、一度整理したい」
と感じているのであれば、まだすべてが決まっていなくても構いません。
反対に、かなり計画が進んでいる段階でも構いません。
相談することは、不安だからするのではありません。
自分の判断をより確かなものにするために、第三者の視点を加える。
それも、未来の事業を守るための前向きな経営判断だと思っています。
決めるのは自分。
でも、一人で決める必要はありません。
そして何より、
事業は、始めることより続けること。
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